【新木場の若者たち】

date

2008/12/20(sat) 小潮

point
新木場(新木場公園)
report

 シーバスのポイントが点在することで有名な新木場の、その名も新木場公園に行ってきた。でも狙いはメバルとカレイだったりするのだが。

『一、釣行前夜』

 初っ端から余談なのだが、実はこの夏、長年便利な足として活躍してくれた愛車の三菱リベロをとうとう処分してしまった。運転ベタのオーナーが面倒がってなかなか乗ってくれず、ガソリン代よりも干上がってしまったバッテリーの交換に費用がかかっていた気の毒な車だった。成仏しろよ。南無。

 さて車がなくなると、これが勝手なもので遠出の釣りをしたくなる。自転車で行けるホームグラウンド荒川を知り尽くしたわけでもないのに、隣の芝生が青く見えるのである。なんか対岸の江東区側は釣れそうだとか、昔通った東雲がいいんではないかとか。最近はアジのルアー釣りなんてのも流行っているようで、じゃあ房総辺りに行きたいなぁなどと妄想は果てしなく広がるのだ。

 となると今度は足が問題になってくる。家来に車を出させるという手もあるが、そのためには、まず家来を作らないといけない。車を買うよりたいへんそうである。現在、唯一の家来的な存在は犬だし...言うこと聞かないし...あっちこっちでオシッコするし...などと犬の愚痴を言ってても始まらないので、ここは一つ公共の交通手段を使うことにした。幸い今の住処はJR京葉線と地下鉄東西線を選択できる場所にあり、電車釣行にはもってこいである。

 そこで、まず電車で行ける釣り場を探そうと、東京湾から房総周辺の釣り場マップを仕入れ検討をしてみた。電車釣行の悩みは駅から釣り座までの距離だ。釣り場マップによると「徒歩30分〜40分」なんて場所もあり、最早釣りではないスポーツになっている。そこで徒歩15分を目安に探してみると、内房だったら金谷だとか、外房なら御宿だとかが魅力的なのだが、その辺りだと今度は電車の乗車時間が2時間近くになってしまう。それでもいつかは行ってみたいと思うのだが、今の自分の体調を考えると、これだけの遠征はちょっときつい。で、ようやく今回のポイントの話になるのだが、ここは新木場駅から徒歩10分ほどのところにあり、しかも家から最寄の葛西臨海公園駅から一駅である。釣りモノもメバルにカレイと、この時期にはぴったりだ。てなわけで電車釣行初心者の入門編として新木場公園に出向いたのだった。

 と、これで前置きが終わったと思って安心してはいけないよ。今度は道具の準備だ。さっきも言ったように、オラの頭には先々アジを釣りたいという想いがある。アジとなれば、これまであまりやったことのない、色々な意味での憧れ「お持ち帰り」をしてみたい。となればクーラーがいるのだが、我が家のクーラーはかなり大きい。これがベテランの釣り師ともなれば、キャリーカートにバッカンと2段積みにしてごついロッドケースを肩にかけるところなのだろうが、電車釣行初心者にはその度胸がない。もう、オラったら恥ずかしがり屋さん。そこで弱気の7リットルサイズを買い込んだ。さて、クーラーを持ったらやっぱりお土産を持って帰りたいのが人情でしょう。もし自分がルアーでストイックかつボウズ的な釣りを展開している横で、サビキでぽんぽん釣り上げてる家族連れなんかがいたら悲しいでしょう。てなことで、餌釣り道具も仕込んでみたのだった。歳をとるに従って、良くも悪くもこうゆうところの融通だけは利くようになってきたのだった。で、「なんだ結局荷物が増えてんじゃん」とかいうツッコミは大歓迎さ。

『二、いざ新木場公園へ』

 ようやく本題に近づいてきた。今回の本命は、ルアーでメバル、餌でカレイだ。アジじゃないのかっ!まぁ、堅いことを言わずに。ルアーには6feetの柔らかめの4本継ぎバスロッド、餌には先日の葛西オープンのために買った中古のちょい投げ用の振り出し竿を準備した。加えて、以前メバルを釣りに行ってシーバスにフックを伸ばされた経験があるので、玉網も準備した。これにバケツやらハウジング付きデジカメやらを持つと、けっこうな荷物になる。それでも大きさ的にリュックとクーラーの2つにまとまったのは、電車釣行にはなかなかよろしい感じだ。

 土曜の午後の陽が傾き始めた頃、肩にずしりと来るリュックを背負い、駅まで自転車のペダルを漕いだ。途中で近所の上州屋に寄り青イソメと予備の仕掛けを買い、葛西臨海公園駅に向かう。クリスマスを控えたこの時期、東京行きの電車はディズニーリゾート帰りの客で混雑していた。といっても目指す新木場駅はすぐ隣、ほんの少しの我満だ。赤いクリスマス仕様のディズニーバッグを抱えた乗客に囲まれて、ただ一人竿を立てたリュックにちんまりとしたクーラーを提げた釣り人は新木場駅に降り立った。ここからは徒歩である。貯木場を控えた新木場の街を抜け、千石橋を渡る。橋の先の右手が新木場公園なのだが、左を見ると何だか場違いなお洒落感漂う建物がある。「スタジオコースト」というイベント会場らしい。ナウなヤングは左、バブル時代にそんなもの終わっちまったおじさんは右だ。

 新木場公園は、西と北を運河に囲まれた小さな公園だ。周辺は見渡す限り倉庫と工場ばかりで、冬の夕暮れということも相まって、うらぶれた感じ溢れる何だか切ない場所だった。小さな子供を連れて行くと、寂しいトラウマが残りそうである。別れ話にはもってこいだ。人気も少なく、時折、写真を撮りに来る人がいるぐらいだ。ただ、人はいないが猫はいる。個人的なジンクスとして、猫が寄ってくる時は釣れるということになっている。猫は釣り人の腕前を見切っているのではないかと思っている。

『三、新木場の釣り』

 まずは、置き竿にする餌釣りの道具から準備する。最近やった餌釣りといえばハゼにテナガエビぐらいなもので、カレイの仕掛けは馴染みがない。といっても、天秤にオモリと市販のカレイ仕掛けを付けるだけなので簡単だ。ただ餌の付け方を調べ忘れたので、取りあえず通し差しで残った部分も切らずに大きくタラシを残してみた。これを投げ込むわけだが、さてどこを狙ったものか。悩んでも判らないので、北西の角から流れのぶつかる辺りめがけて適当に放り込んで、竿を置いた。

 次にルアータックルだが、こちらはスプリットショットに0.7gのジグヘッドという、アジ釣りのメソッドとして紹介されていたリグを組んでみた。今回はメバルなのだが、ちょっと試してみたかったのだ。

 さて、しばらく餌竿は放っておくことにして、まずはルアーで周辺を探ることにした。時間は4時半を回り、太陽はまさに消え入らんとしている。後1時間程で下げ止まりという頃合だ。潮は澄んでいて、岸際は底まで見えている。そこで少し沖合いに投げてみることにした。公園の周辺は、どちらかというと西側の方が流れがある。北側は流れはゆるいが川幅が狭いので、屋形船が行き交う船道を探ることができる。まずは流れのある西側から探ってみるが、これといって反応がない。ガン玉を増やして飛距離を稼ぎながら深場も狙ってみるが、これも芳しくない。これ以上オモリを増やすと沈みすぎる気がするので、リグを飛ばしウキに変えてみた。時折、置き竿の様子を見ながら、誰もいない公園の周辺を気ままに探って歩く。陽はいつの間にか音もなく沈み、辺りは闇に包まれ、照明の灯りが水面にこぼれる。消えた太陽と入れ代わるように吹き始めた南西からの風が、運河の水面を波気立たせる。

 5時半を回り、そろそろ下げ止まりになる頃合だった。風を避けて探っていた北岸の中央に来たところで、手元にぶるっと軽い魚信が来た。そのままリールを巻き上げ、すぽんと引き抜く。あ、セイゴじゃんっ。ちっちゃいなー。でも、うれしいぞ。と喜んでしまったのだが、考えてみればこいつは今日に限っては外道なのだ。いかんいかんと、誰見るともないニヤケ顔をひきしめ、北岸東端の千石橋のたもとに辿り着いた。

 千石橋は水面までが低く、デイゲームでシェードを狙うにはよさそうな場所だ。公園から橋桁を狙うこともできる。ただし、岸際は水深がとても浅い。またキャストをうまくやらないと、橋を行く人や車をヒットする惨事になりかねない。そのため小心者のオラはタイトに攻めきれず、ここでは何も釣れなかった。

 さて、橋から置き竿をした北西の角まで戻ってみると、西岸の照明はフェンスのすぐ側に立っていることに気がついた。少し波気はあるが、これってメバル釣りにはに条件がよろしいのではないか?実際、照明の灯りの下に立ってみると、岸際は宵闇の中でも底の様子まで見える。少し明るすぎるかなと思いながらも、沖合いに投げたルアーをその透けて見える所まで引いてきた時だった。ややっ!チェイスしてる。あ、バイトしたーっ。けど、乗らない...って、またセイゴなんだけどね。下げいっぱいの時間だったのだが、セイゴは元気だったんだねぇ。

 この期せずして見ることのできたチェイスで、さらに気持ちが盛り上がったのは言うまでもない。何せ陸っぱりのシーバスでチェイスを見たのは、これが初めてなのだ。また追っかけてこないかなと、わくわくしながらルアーを投げる。だが、そこまで甘くなかった。一度は膨らみきった胸も次第にすぼんでいったところで、「そうだ、今日は餌があったんだ」と心の逃げ場を見つけたのだ。

『四、形あるものは必ず壊れる』

 餌をつけた置き竿は、それまでも何度か打ち返しをしていた。その度に餌の様子を確かめたわけだが、明らかにタラシだけが千切れたと判る時もあれば、なんだか餌がちびていることもある。だが経験が浅いので、何でちびているのかがわからない。餌を喰われているような気もするし、さびいている間に削れてしまったようにも思える。こればかりは考えたってしかたがないので、魚信も遠のいたルアーは一旦休憩にして、しばらく持ち竿で餌釣りに専念することにした。

 持ってみてわかったのだが、竿を動かしていないにも関わらず時折竿先が曲がることがある。初めのうちは魚信かと思ったのだが、聞き合わせをしても反応がない。どうやら潮で仕掛けが流されて、それが竿先に出ているようだ。などと少しずつ餌釣りの妙に引き込まれていた時、ぶるるるっと魚信が来た。だが、これは乗らなかった。オラごときに魚信で何の魚か判ろうはずもないのだが、ただ何かが喰いついているのは明らかなので、何とかこいつを釣り上げてやろうと心をたくましくした。

 それから魚信は無いなりにもせっせと打ち返していたのだが、その内にがっちりと根掛りしてしまった。これを外そうと竿を煽ると、ぱちんと弾ける音がして、あっけないほどあっさり折れちまった。中古だったので腰が抜けていたのかもしれない。結局、この840円で購入した竿は、葛西オープンでtakeが釣ったハゼ1尾を釣果に寿命を終えたのだった。

 かくして餌釣りという心の拠りどころを失ったところで、頃良く西の運河に潮目が出た。そこで心機一転ルアーロッドに持ち替えて、潮目に近い西岸の一番南にある照明の周りを探ってみた。すると、ほどなく魚が掛かり竿がしなった。またセイゴだが、さっき釣ったやつよりもサイズがいい。30up、もしかしたら40cmあったかもしれない。そのため竿が負けてしまって抜き上げられない。こんなこともあろうかと玉網を持ってきていたのだが、横着をして網枠を付けていない。しかたなくラインを持って抜こうとしたら、1号のリーダーが切れてしまった。8時過ぎのことだったと思う。

 玉網を準備していたらと悔やむことしきりだが、後の祭りである。せめて同じ過ちは繰り返すまいと、まだリュックに収まったままになっていた網枠を取り出した。オラの持っている玉網は、持ち運びがしやすいように枠と柄の間に首が折れる金具が付いている。ここに網枠をねじ込んでいると、いつまで経ってもぐっと締まる感覚がない。と、思っていたら、枠がすっぽりと抜けてしまった。見るとねじ山がつぶれてしまっている。こっちは竿と違って、新品で買った挙句に一度も魚を掬っていない。むぅっ...捻りすぎたのかもしれないが、ちょっと弱すぎだろう。腹立ち紛れにもう一度ねじ込んでみると、なんだか留まったような気がする。そこで使えるかなと、ためしに水に浸けたら、網枠が抜け落ちてしまった。ああ、どうしよう。あ、そうだ、玉網で掬えばいいじゃん。って、その網が落ちたんだった。などと動転しながらも、釣り場にゴミを残してしまったことを悔やむのだった。

『五、新木場の若者たち』

 気落ちしていてもしかたがないので、まずはリーダーの切れてしまったリグを組み直すことにした。ここでシーバス狙いに変更しようか迷ったのだが、まだメバルに未練もあり、結局飛ばしウキを重めにして飛距離だけ稼げるようにした。

 間もな9時になろうかという頃、釣りを再開した。すると皮肉なもので、こうゆう時に限ってよく釣れる。またセイゴだ。30cmはないだろう。今度はうまくやれば抜けそうだ。ちょっと疲れさせて抜き上げようと岸際でしばらくあしらって、いざと思ったら鈎が外れてしまった。メバル用のファインラインの細軸なので、暴れさせている間に口切れしてしまったのかもしれない。

 多少がっかりもしたが、今日はまだ釣れそうな気がする。となればキャストあるのみっ。と、軽いリグを投げ続けていたら、お約束のライントラブルである。道糸がくしゃくしゃに絡まってしまったので、ようやく踏ん切りもつき、遂にシーバス狙いへ切り替えることにした。リュックを探って取り出したのは、CD-5のレッドヘッドだ。以前メッキに凝っていたときに仕込んだものだが、5cmってちょっと小さくないか?えへへ、だってまだメバルのことがね、諦めきれなくてさ。だが往生際の悪いターゲットの乗り換えは既に時合いを逃したようで、気まぐれなセイゴたちからの魚信が途絶えた。電車の時間も気になりだしたので、10時を回ったところで納竿としたのだった。

 振り返ってみると、あれこれ道具を壊したのは痛かったが、大人になって初めての電車釣行、初めての場所で、陸っぱりでは初めての数釣りを味わい(ほとんどバラシちゃったけど)、初めてのチェイスまで見られた。その上、餌釣りでも魚信があったのだから、今回の釣りは大満足である。ちょっと新木場、はまりそうだな。

 さて、ここからは暗い公園を横切り、きっと人気のない新木場の街を抜けて駅まで歩くことになるのだろうと覚悟していた。ところが千石橋を渡ると、そこには思いもかけず人が多い。それも若者ばかりである。実は来る時に見たスタジオコーストでライブをやっていたらしい。ちょうど終わりの時間が重なったのだろう。年の瀬の新木場で、魚類の若者たちと戯れたおじさんは、人類の若者たちの群れに紛れて帰路についたのだった。

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17cm & 2-Break

photo
新木場紹介ほのかに侘しさの漂う街だねぇ。

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