【番外編 『江戸前秋模様』】

date

2002/10/19(sat)+20(sun) 大潮

point
葛西(左近川親水公園)
report

 先日、マックスと散歩に行った公園で、楽しそうにハゼ釣りをしている家族を見かけた。釣りなのに、楽しそう?そうだった、釣りって楽しいものだったんだった。忘れてたよ、あんまり釣れないもんで。でも、いいな、こうゆう釣りって。てなわけで、このたびしばしシーバスを忘れて、ハゼにチャレンジすることにした。

 で、まずは道具の準備から。この、新たに挑戦する魚種のために、タックルを釣具屋で選ぶ時間が、とても好きである。今回も、ハゼの道具を買いに、近所のフィッシャーマンへ出かけた。まず、何を買えばよいか、店内の張り紙で確かめる。この店は季節の釣り物用の道具が一つのコーナーにまとめてあるので、手軽に必要なものをそろえられる。ルアーでは使うことない、のべ竿やウキ、そして餌を買い求める。一つ一つが安いってのが、これまた楽しい。こうして買い揃えたおニュウの道具を持って、いそいそと公園に向かった。

 住宅地のすぐ脇にある左近川親水公園は、荒川と旧江戸川をつなぐ水路のほとりを整備した、地元住民の憩いの場である。ハゼの釣り場としても人気があるのだが、大場所ではないので休日でも混み合うことがなく、のんびりと過ごすことができる。

 初日の土曜日は、ボート乗り場の東にある浅場で竿を出すことにした。慣れない手つきで、できあいのシモリウキの仕掛けをのべ竿に結ぶ。そしてぽちゃんと目の前に餌を落とした。で、爆釣だったんだな、これが。小指ほどの小ハゼに、ぽつぽつと10cmクラスが混じる程度だったが、とにかく釣れる、釣れる。いやぁお気楽。でも、引かない。

 たいがい飽きたところで、竿をたたむ。公園の中を通って帰る途中、ボート乗り場の対岸で釣っていたおじさんのバケツを覗いた。するとそこには、セイゴが何本もパクパクやっているではないか!しかも、話を聞くと40cmクラスを2回ばらしたという。「ハゼのしかけだから、すぐに糸、切られちゃったよ」と、おじさんはニコニコとのたまうのである。しかし、ここは投げ釣り禁止の公園である。ルアーを投げるわけにはいかない。そう、人気のあるときはね。にやり。

 明けて日曜の早朝、まだ曙光のきざしすらない公園に、ひとりの男が立っていた。男はこそこそと、竿になにやら結んでいる。そして辺りを見回し、人目のないのを確認すると、おもむろに竿を振った。静かな公園に、ルアーが着水する音が響く。ときおり自転車が通りかかるたびに、男は後ろめたそうにリールを巻く手を止めて、行き過ぎるのを待った。ついでに言うなら、ラインの先のルアーに、セイゴが食いつくのも待っていた。しかし、そぼ降る雨が強まるばかりで、魚は姿を現すことはなかった。

 その日の夕方、もう意地を張るのはやめて、再び餌を持って公園に出向いた。何せ歩いて5分である。気が向けば、行けちゃうのである。今回のポイントは、なんたって昨日おじさんが、セイゴをかき集めていた深場である。朝方、掟破りの男がルアーを投げていたのも、同じ場所だった。しかけは、40アップがかかっても良いように、1.5号のミチイトに玉ウキ、10号のセイゴ鈎を結んだ。これを護岸のすぐそばに落として、しばし待つ。

 ところで、ルアーと餌釣りの違いの一つに、行き交う人との会話の多寡があることに気がついた。頻繁にキャストを繰り返しているルアーマンに対して、餌釣り師は、魚が餌をつつくのをじっと待っていることが多い。淡水であれば竿先に神経を集中しているストイックな雰囲気もあろうが、海に至ってはただの暇そうな人にしか見えないのだろう。野次馬にしてみても、足下のバケツにこれ見よがしの釣果を泳がせながら、ぼぉっとウキが引き込まれるのを待っている餌釣り師は、かっこうの話し相手に違いない。この日も、妙に日本語のうまい外人や、一人で釣りをしていたおばあさん、同じく釣りを趣味にするお父さんなど、いろいろな人と会話をしながら、魚がかかるの待った。

 蛍光色の玉ウキをじっと見ていると、目が寄ってくるような気がするのはボクだけだろうか?ウキが引き込まれるのは魚が引いているからではなくて、眼力で押しているようにすら思えてくる。と、そこで正気に返って竿を立てると、小さなハゼやらボラの仔やらがかかっている。しかし相変わらず型が小さいので、先のおばあさんに教えてもらった方へ、少し場所を移動した。すると、ここで来たのである。買ったばかりの1,280円ののべ竿がしなる。引き込まれる感触を楽しみながら引き上げたのは、15cmほどの巨大ハゼだった。このハゼは、散歩人の目を引きつけ、ボウズ続きの釣り師の自尊心を大いにくすぐってくれたのだった。

 その後、ここでもあたりがなくなり、日も暮れ寒くなってきたので、家に帰る方角へ釣り座を変えた。街頭が水面を照らす中、ぼんやりとウキだけが浮かんでいる。と、これが、暗い水中に消えた。お?竿を立てる。重い!長時間竿を支えて疲れた右腕だけでは抜けず、小娘のように両手を添えて竿を持ち上げた。すると、夜目にも映える銀色の魚体が!あぁ、喜悦。恋焦がれたセイゴが、待ちに待ったあのセイゴが、竿の先にぶら下がっているじゃないか!喜びのあまり思わず小首をかしげて、セイゴちゃんスマイルを満面に浮かべてしまったのは、逢魔が時のなせる仕業か。それとも、待ちすぎている間に、ボウズ慣れした心の片隅で醸成された狂気のせいか。

 餌で釣った、それもセイゴをシーバスと呼んでよいのだろうか?答えはYES。本サイトでは、今後これもシーバスと呼ぶことといたします。少なくとも、マスターがルアーでシーバスを釣るまでは。

result

セイゴ 15cm、ハゼ 15cm他多数

photo
左近川の魚たち 徒歩五分。魚種豊富。

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